京大生による完全個別指導 神戸本山学園

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A先生の大学院での研究内容

2023年12月28日
    • 大学院工学研究科2回生のA先生が、大学院で研究している内容をご紹介します。 A 先生は今年度で修士課程を卒業しますが、大学に残り博士課程への進学を決めています。

      A先生の大学院での研究内容

      大学院での研究内容

      私は大学院で、物体中での熱の伝わりやすさとその測定技術に関する研究に取り組んでいます。中でも、原子数個分といったような、非常に小さい物体や構造における熱の動きに興味があります。
      それほどに小さい構造の中では、熱のふるまいをはじめとする物理的な現象が、目に見えるくらいの大きさがある物体の中での現象とは違ってくるということが知られています。
      簡単に言うと、目に見えるような大きさの物体は膨大な数の原子から構成されており、原子個々の動きというよりかは、全体的にぼやっとみたときの動きのほうが重要になる一方で、非常に小さい物体は原子個々の動きの影響が無視できなくなり、従来のぼやっとみる理論では説明できなくなるということです(厳密にいえば、量子力学といったような難解な物理の話になります)。
      近年急速に進化しているスマホやパソコン、AIの頭脳部分などには半導体とも呼ばれる計算装置が搭載されていますが、
      その装置は原子スケールの非常に細かい構造から構成されています。
      ですので、より性能の高いものを作ろうと思うと、その中での熱のふるまいを考えて適切な設計を施す必要があります。
      皆さんもスマホを使っているとスマホが非常に熱くなるということは経験があるかと思います、熱についてちゃんと設計しないとスマホは正しく安全に動きません。その設計にあたっては先述のように、原子個々の動きも考えたような理論を用いないといけません。
      このように、現代社会を支えるために必要とされている、非常に小さい構造における熱のふるまいに関する理論ですが、その中には未解明な部分が多く残されています。
      そのため、現在のスマホといった製品にも、まだまだ改善の余地が残されているということです。
      この熱に関する理論に未解明な点が多く残されている理由として、非常に小さい構造における熱のふるまいを測定するのが非常に難しいという点が挙げられます。
      非常に小さい構造での熱となると、観察したい対象の熱の量も非常に小さくなります。
      その熱を測定しようと温度計をあてると温度計に振れたことにより熱が逃げてしまい、もはや測定したかった熱を見ることは叶わないというようなイメージです。
      絶縁体をはさむことで容易に遮断できる電流とは異なり、熱の流れは遮断することが非常に難しいというのが、熱の測定が難しい根本的な原因です。
      そこで私は、非常に小さい構造での熱のふるまいを解明するため、そのような熱の計測技術の開発を行っています。
      温度計をあてるとそこから熱が逃げてしまうという問題に対処するため、測定にはレーザーで光を当てることにより行っています。
      物体にレーザーを当てると、レーザーのエネルギーを受けて物体に熱が与えられ、その物体の中で熱が伝わっていくことにより、物体の温度が変化します。また、物体の反射率(当てたレーザーのうちどれくらいが反射されて戻ってくるのか)はその物体の温度によって変わるという性質があるので、物体表面で反射されてきたレーザー光の強さの変化から、物体の温度変化を測定できます。
      これらの現象を利用して、物体をレーザーで加熱して同時に温度変化を測定することで、その物体内での熱のふるまいを調べています。
      測定の原理としてはそこまで難解ではないのですが、実際に測定装置を作って動かすとなるといくつもの困難に直面し、一つ一つ問題点を解決していくということに取り組んできました。例えば、得られる信号は非常に小さいため、周囲の人の動きによる振動や電波に由来するような非常に小さなノイズによって簡単に埋もれてしまい、ほしい信号が得られないという課題がありました。
      そこで、関連する測定技術の論文などを読み漁り、その中で用いられているノイズを低減するための手法を、自分たちの装置にも適用できるように改良して搭載してみました。
      その結果大幅にノイズを抑えることに成功し、今まで見えなかった信号が見えるようになりました。

      研究を通して得られる喜び

      このように、様々な試行錯誤を経て、ようやく熱のふるまいの測定が行えるようになってきました。
      その結果、この試料の熱のふるまいは少なくとも日本では私にしか測定できない、というような状況が生まれ、実際に他の大学や企業の研究者の方から測定をお願いされるというような機会も増えつつあります。
      研究の中では、うまくいかないこと、困難なことなどが非常に多く現れます。
      実験なんてなぜか失敗するということばかりです。
      ですが、その失敗の原因を解明し次は成功させるため、ほかの論文を読んでみたり、自分で仮説を立ててそれを実験により検証してみたり、といったプロセスで試行錯誤することにより、困難を克服できたときの喜びはひとしおです。
      また、自分の研究の成果やその中で得られた知見が、論文や企業との共同研究といった形で社会へと出ていくのはとても嬉しいことです。
      理系に進む人ならほとんどが、大学生活の後半や大学院において研究に取り組む機会があると思います。自分が将来どのような研究をしてみたいか、中高生の段階からぼんやりとでも考えてみるのもいいのではないかと思います。